APEX N1ダンパー
から
GTecダンパー誕生へ
TTにおいて一番初めにオリジナル化されたのはSW20である。

TTが開店したころ1996年はジムカーナ界のリア駆動「A3クラス」はまさにSW20全盛時代。ランサーエボ3とちょうどクラスが分かれた頃である。
TTでももちろんお客様の大半はSW20であった。
(それは何故か現在も同じである。)

1995年JAFジムカーナレギュレーションでA車両の車高調整式ダンパーがOKとなり、ついで翌年からはピロアッパーマウントの使用、直巻きスプリングの使用の両方がOKとなった。
しかしSW20に対しては設計上の問題でコストが高くなる難点があり、またフロントストロークの確保が難しい車であるため、まだどのダンパーメーカーも車高調に踏みきれないでいた。せっかくのレギュレーション変更とは裏腹に車高調が普及しづらかったのだ。


アペックス社から全長調整式のSW20をラインナップすると聞かされたとき、これはもう他メーカーダンパーに先駆けて踏み切るしかない!と話あいをした。
現状ノーマル形状でもストロークのとれていないSW20のダンパー。
全長調整式があれば、今までよりもストロークもとれるし車高も下がる!
「ダンパー」があれば「仕様」を意のままに変更してもらうことが可能なのだ。

この話をアペックス社と煮詰めていくうちに
「ショップオリジナルの母体として仕様作りからすべてショップでやってみませんか?」
というお話になった。
ストリートやサーキットとは違うTTオリジナルの
「ジムカーナ仕様」
を自分のショップで作る!!!

不安よりもその魅力にとりつかれた。

かくしてTTは
アペックス社のフットワークエクセルディーラー店となり、自分達で自分達の走り易い足を研究していく事となった。
1.SW20開発


1997年〜1999年 大槻氏を中心にダンパーの仕様を開発。
その頃使用していたタイヤはBSのRE540S。
98年に発売されたDL98Jのグリップ力にその頃540Sは完全に押されていた。
タイヤのグリップの足りない分をダンパーで押し付けて出せないかと考え
方向性は
「押し付けてタイヤを滑らせて曲げる」
ダンパーの仕様となっていった。
ただ押し付けてもタイヤのアンダーを誘うだけなので初期の減衰は入れない。
そのため、ブレーキパットのバランスも考え直す事となり、WINMAX社にお願いしてオリジナルブレーキパットを制作(現在生産中止)。

ダンパー、パットのバランスでタイヤとのマッチングをとった。

当時のダンパーは大槻の好みを強く反映しており、コーナー安定度が強くサイドターンは初心者には難しいものとなった。
実はこれがのちのちターンレバーを作る事となったきっかけでもある。


ただし全長調整式のフロントダンパーを先駆けたおかけで、そのフロントストロークには他のメーカーにないしなやかさが生まれていた。

2000年〜
2005年
YHA048SSがセンセーショナルにデビューした。
グリップが高い。柔らかいためよれる。
この年からYHタイヤのスイッチした大槻は更にフロントダンパーのタイヤと路面との押し付けにこだわった。
その代わり、少しリアを硬くし旋回を楽にした。

その後、2002年を最後にTTスタッフからSW20の乗り手がいなくなった。

残念ながら開発はここで止まってしまっていた。
2006年夏 稲ゆ!チーム員の神奈川ジムカーナ戦の応援に富士スピードウェイに赴く。富士スピードウェイは路面のグリップが良くスピードも関東圏としてはのるほうである。

SW20が走る。
コーナーで曲がっていない。
「?」
別な車も!?
よく見ると当店仕様のSW20ダンパーを使用しているエントラントだった。
「何が起きているんだ...」
内心とんでもない冷や汗をかきながら絵に書いたようなアンダーコーナリングの後、サイドを失敗する「GTecダンパー」の皆さんをくいいるようにながめた。
全長調整式の他メーカーダンパーのSW20はそれぞれにメーカーのくせはあるものの曲りが起きている。
稲ゆ!は「それ」をみんなの腕のせいだとは思わなかった。


.....中古のSW20をチーム員から買った。
2006年
9月 
まずは神奈川戦でみた動きの現象を分析。
ダンパーの動きを横から見る。

GTec
1.加速時...フロントノーズリフト、リア水平
2.減速時...フロント水平、リアダイブ
安定するわけだ。曲りが起きない。
最後にセッティングを出した頃とは今はまたタイヤの特性もグリップも違う。WINMAX社と作っていたオリジナルパットも現在は作っていない。ブレーキタイミングでリズムを取るのも今のバランスでは困難だった。進化させずに開発が止まってしまっていたことを今更ながらに悔やんだ。


一番使われている他メーカーのダンパーの動きを見る。
1.加速時...フロントニュートラル、リアややリフト
2.減速時...フロントノーズダイブ、リアイン側リフト
常にリアの荷重を軽減しブレーキでリフト&スライドがかかるので結果ビギナーズラックは何もしなくても曲がりが起きる。


GTecの弱点利点、他メーカーさんの弱点利点を比較してマネるのは簡単。しかしもっといい動きを出せるはずだ!

ダンパーを仕様変更した。
スプリングは今まで販売してきたフロント4K、リア8Kのままセッティングを出していく事にする。
(稲ゆ!が2002年最後にSW20に乗っていたときはフロント4K、リア10Kでセッテイングしていた)
2006年
10月 
テスト1
1.加速時...フロントややリフト、リアややリフト
2.減速時...フロントダイブ、リアニュートラル

フロントの動きがリアに対して大きくスラロームでフロントがバネ負けを起こして復帰が遅い。ロール量を前後であわせなければいけないと判断。
傾向的に弱アンダー。サイドターンは引きづらいが利かないことは無い。
2006年
11月 
テスト2
減衰の傾向は変えずに前後のロールバランスだけオーバーホールであわせた。
1.加速時...フロントややリフト、リアニュートラル
2.減速時...フロントダイブ、リアニュートラル
暴れる感じ、戻りが遅い感じは解消。
傾向的に弱アンダーは同じなので今度はこちらの対策としてベース減衰力を見直すことにした。

テスト3
減衰力自体の大幅仕様変更をおこなった。テスト1と比較しフロントの初期減衰力を立ち上げた。
リアは伸びを強くする。その代わり車高を1センチ上げるとする。

乗ってみるとリアは扱いやすくなったがフロントが硬い。突っ張りが出るようになった。
フロントのリフトは感じるが減速時のダイブが減っている。
ただしもっとノーズダイブが入れば初期から曲りが起きるフィーリングがある。この時点でも2005年までバージョンの仕様よりは使い物になるという確信はある。
2006年
12月
テスト4
テスト3よりフロントの縮みを更に強くする。
話の流れからすると「逆?」と思われるかも知れないが、そこはフロント4Kという最低荷重のスプリングを使っている最大の特徴かもしれない。
リアはもっと細かく指示。縮みはテスト3の1.5倍、伸びはテスト3の倍。
フロントは抜群によくなった。
グリップベースで進入初期からフロントが入る。
リアは硬すぎた。
ノーカウンタードリフトやスラロームは自由だがサイドターンで動かない。
もう少し!


テスト5
フロントテスト4で固定。
リアブレーキングでややリフトがかかるだけで良しとするよう、伸びをテスト4の半分まで柔らかくした。そして縮みは逆に柔らかくした。
SW20のリアは重いので硬めに作る...という先入観をやめてみたのだ。

SW20はしなやかにトラクションがかかった!
コーナーはステアを向けるだけで曲り、ゆっくり出るリアはタイヤをずらすことなく縦にトラクションを与え曲がった。
ここに答えを発見したのだ。
2007年
1月2月
テスト5を若干乗り味という点で仕様変更し、チーム員のお下がりタイヤを導入。(笑)
BS55S、DL03G、YHA048にて(溝はあまり語れない...)ダンパー条件を一定にして乗り

加速
減速
コーナー
サイドターン
で傾向をみた。

そしてどのタイヤでも前後のロール量、減速時のリアリフト量が極端に変わらない減衰を調整ダイヤルで確認。
その幅の範囲が3クリックぐらいの幅しかなかったため、3クリックの内容を6クリック以上の幅を持たせて最後の仕様変更となった。
あと、BSタイヤの時だけ、加速でリアが沈み込み過ぎるのでSW20はブリヂストンユーザーが比較的多いことに配慮し、縮み減衰の加速側を若干硬くした。


この車をミドルクラス以上のSW20乗りのチーム員に試乗してもらい、全員のタイムアップとサイドターンの成功率アップを図ることができたので「新GTecバージョン」として採用するにいたった。 
2008年
4月
現在このダンパーは全日本N3トップクラスのドライバーの皆さんに
「動きを見てお褒めをいただき」
「乗ってみてお褒めをいただき」
「バネレート(フロント4K、リア8K)を聞いて驚かれる」
そんなダンパーに仕上がっています。

「ロールしながらクルマが前に出る」
「Sタイヤでもラジアルのように容易に向きが変わりターンが出来る」
どこまでいっても破綻なく意のままに走るダンパーです。


ジムカーナ以外のショートサーキットでもバネレートの変更なく(推奨フロント4Kリア8kのまま)、みなさんのタイムアップが報告されています。
(例ジムカーナN車両にて鈴鹿南正コース59秒633が報告されています)

これに甘えず、引き続きGTec仕様ドライバーの運転を見つつ、仕様のアイデアを重ねて行くつもりです。
まだまだ進化させます!
2.FD3Sダンパー開発


〜2003年 この時点で3年間FDを乗り続けていた大槻氏のパイロンコースで培ったノウハウを生かしたダンパーはこの年の大槻氏を一躍スターダムにのし上げた。
2003年全日本ジムカーナN3クラス山野哲也につぐシリーズ2位!
しかし同時にGTecFDダンパーに対する試練が始まった。
2004〜2006年 「もっとライバル達は固い足でブレーキをつめてくる。もっと硬い足を乗れなければだめだ。もっと効くパットでブレーキを詰めなければダメだ。」

大槻氏は自分の希望を車に託すべく、何度もの仕様変更が始まった。
しかし、硬い方向でどんなに仕様を変えてもダンパーはコーナー進入でリアのスライドを誘い、逆に立ち上がりスピードを落としてしまった。
でも立ち上がりのアクセルにはついてくる。トラクションはかかるのだ。
そこで大槻氏はフロントのレスポンスを下げた。
フロントが入らなければピーキーなリアを押さえ込む事ができる....

答えは...
2006年全日本ジムカーナシリーズN3クラス27位 入賞は10位1回のみ...。


はまった....。

GTec仕様は売り物である。
みんなが乗って誰でもタイムの出せるものを作らなければならない。
そのために私達はお金のかかる全日本戦に出場し、多くのセッティングを学んでいるのだ。
初めからやり直そう....。


ただ、店に2台のN車両(駆動系のみチューニング可能クラス)は必要ない。


....中古でサーキット仕様のFDを買った。
SA2車両(吸排気チューニング可能クラス)にするためだ。
2007年
1月〜3月
模索のためA社の減衰力をN1ダンパーに真似てみる。

(F)14K(R)14kのスプリングにて。
回頭はいいが脱出でアンダー。バネレート負けを起こしているのか?
(F)15K(R)15kのスプリングにて。
減衰調整しつつ傾向を探るとフロントの縮みが硬すぎることがわかる。

B社の減衰力をN1ダンパーに真似てみる。
(F)14K(R)14kのスプリングにて。
寒い時期はフロントが入り易い。リアも縮みの初期が柔らかい。
(F)15K(R)15kのスプリングにて。
乗りやすくなるも、低速で路面のアンジレーションを拾う。

ダンパーは各社の仕様を例えばダンパーテスターで数字だけまねて作っても、ダンパー自体の設計...特に中のピストンの設計により全くフィーリングの違うものになる。他社を真似しても同じものはできないのだ。

まだ気温が低い時期のため、この2社から得た方向性からまずは
「もっと車を動かす」
=FD3Sのロールして曲がる特性に絞って足を作る事にした。

この後、この3ヶ月の間にフロント7仕様、リア5仕様毎回変えてのテストを行った。
4月 その3ヶ月間の経験からスプリングをフロント15Kリア16Kでしばらく固定とする。リアヘルパーも試したが、ドライバーの(稲ゆ>.<)ターンの精度が悪くなるため、ヘルパー無しでセッティングしていく事とする。

フロントは縮みを減衰初期から柔らかめに出し、伸びは立ち上がりで暴れない程度に硬さを出し、今後リアとのマッチングを見ながら変更することとする。

リアもフロントとロール量をあわせようとしたところ、セット5の縮みが柔らかすぎた。そこで縮みを硬くしたら乗りやすくはなるが、対荷重で前後の動きが激しくコーナリングに激しいアクションを伴う。これではダメダ。見た目も美しく追従したい。
5月
〜7月
ヨコハマA050新発売。

と、ともになんと今まで煮詰めてきた足のセッティングが合わなくなった。
今までのA048とは特性が異なる。
ただし、減衰力の変更で運転しやすい傾向があることがわかり、前後ともその動かし易い減衰力の範囲をメインのクリック状態で使えるように仕様変更。
それまでのA048仕様より一挙に前後とも伸びを30%柔らかくする。
8月 しかし依然、対荷重での対角線上のうごきになかなかしなやかさが出ない。
しかもこの方向で減衰を下げていくとフロントロックもしやすくなる。
頭を入れようとして柔らかくしているのに下がりすぎるとロック...。
これはフロントダンパーのせいではないな...。

この頃、ボディ補強したFD3Sは顕著に動きが変わってくる事を知る。
私の乗るFD3Sはフルパネルボンド&ウレタン補強により、面剛性に関しては隙がない上、SA2車両ピロアッパーマウントなのでより動きがダイレクトである。
以上を踏まえて、今までと違った視野が無いかとRラボラトリー(もともとはアペックスのN1ダンパーを開発した皆さんの会社)社に相談。
「とりあえずこうしたい」
というのをRラボラトリー社風に味付けるとどうなるか...。
という事で仕様変更を行った。フロントは今までよりも少し初期を硬くし、リアは全く違う観点で柔らかくなった。
大きな深いコーナーダンパーをフルストロークさせることが無いので今度は乗り易くなった。
9月 しかし大きく前荷重にし、また横にロールをかけた場合、一度横にずれると復帰しない傾向が残った。サイドターンの後のトラクションをかけるのに横に行く足を待たなければならない。
柔らかすぎるのか?
前後どちらのダンパーにに起因するのか?両方か?
10月

2008年
1月
Rラボラトリー社のダンパー仕様のいいところと今までのGTecダンパーのいいとこどりはできないか。何度も繰り返し仕様変更をしたがしっくりこない。

と思ったときに、両立できるイメージがひらめいた。
灯台元暗し。
その答えは見逃し易い小さな値としてダンパーテスターの計測値に出てていたのである。
2月 2速コーナー
3速コーナー
グリップ
スライド
サイドターン
どれも簡単にインフォメーションの伝わるダンパーが完成した。
それとともにバネレートは
フロント16K、リア18Kへのレートアップを行った。

このFDの走りは

全日本トップドライバーの方に乗っていただき
「運転しやすい。よく曲がるしトラクションがすごい。」
「この車なら全日本で勝てる気がする」
とまでお褒めをいただき

別なショップの方には
「なんだ、一体どうしたらあんな足ができるんだ?全然今までのTTさんの足とは別物だな」
と驚嘆いただき

ヨコハマのタイヤメーカーさんには
「おいおい、足が良すぎてタイヤ評価になんないぞ」

とまでからかわれる始末である。(笑)
4月  この足をN車に適用するとどうなるか?
前後ともゴムアッパーマウントに変更し、走ってみたところGをかける初期の段階で横に大きくずれが起きることがわかった。
その症状さえなければ他にピロアッパーマウントからゴムアッパーマウントに変更する弊害は感じられなかった。

GTecダンパーは完成!

直ちにこの足を生かすためのN車用ゴムアッパーマウントの追及を開始した。
3.
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7.
8.EF8ダンパー開発


2005年
進化は敗北から始まった。

2005年度全日本ジムカーナ最終戦 MINEサーキット
永島裕士 SA1クラス六位(シリーズランキング 二位)

この試合で彼は1年間争ってきたチャンピオンを逃した。
運転が負けた?
それはドライバーの努力だ。チューナーの関われる部分ではない。

負けていたのは足のセッティングだった。
サポートドライバーの成績を後押しできずチャンピオンのチャンスを無くさせた。


TTのスタッフは1人もFF経験者がいない。
このため、CR−Xは過去のデータに依存。
DC2インテグラのアペックス社市販データを元にノーマル形状の頃からのデータを織り交ぜてドライバーがカートコースメインという事だけ踏まえてアレンジしたものだった。

TTのスタッフは1人もFF経験者がいない。
サポートドライバーの作る挙動がタイムの出る挙動なのか、リア駆動の動きをベースに見る目を養ってきた私達にはフロントだけ引く車の「良い動き」が今一わかりずらかった。


よほどこのこの敗北が精神的に辛かったのだろう。
このレースの翌週、サポートドラは翌年の開幕戦の舞台である関越スポーツランドに来ていた。こちらも最終戦で見た足の違和感を確かめるべく慣れ親しんだレイアウトである関越スポーツランドへ赴いた。

関越を走るCR-Xにはまたしても違和感があった。
でも何かがわからない。
「1度乗らせて。攻めないから。」
FFに乗った事は無かった。
でもきっと....限界性能に対するダンパーの扱いやすさを追求することは駆動方式関係なく同じ方向性を求められるはずだ...。

スタートしてシフトアップ。左にコーナリング、そして1速にダウンして2本巻きパイロンを立ち上がる。
....全くダメだ。こんなのではタイムが出ない。
何故今年1年で見抜けなかったんだ....。
コイツ、なんでこんな足でここまで頑張れたんだ。


そして
この日から、軽車重FFの全く新しいダンパーの模索が始まった。
2006年
〜4月
何が全然ダメか。
硬すぎて曲がらない。タイヤがずれた時のトラクションが無い。

全然ダメだった。



もっとトラクションを上げる。
これはそもそもの車の設計の問題なのだが、EFもDCもホンダ車のダンパーは短い。
まだDC系は車両側のアーム設計そのものが進化しているのでこの短いサスペンションでも十分ストロークを確保できる。しかし旧設計のCR-Xではアームのレバー比が足りずもう少しダンパー自体に長さが欲しいところである。
縮みで工夫できないか1?
大阪から送ってもらったダンパーを組み替えて送り返し、テストしてもらいレポートとビデオを送ってもらうというやりとりを繰り返した。多い時には1ヶ月で2回。
何度もビデオを見てはディスカッションを繰り返す。

しかし、基本的なイメージがどうやらドライバーと開発側でずれている。
何かが違う。
テスターで計ると
「イメージに近い動きが出ているはず」
なのに、実際に走って来るコメントは
「ピッチング(跳ね)がででしまった」
「スイートスポットがとても狭くなってしまった」
というものだった。


これを解決するにはもっと減衰力を抜いてしまうのか?
車重に合わせて柔らかくしていく方向ではこのFFドライバーの欲しがるステアレスポンスを維持出来なくなる...。


倉庫に眠っているモノがある事を思い出していた。

以前、別メーカーさんが実験的に開発した試作ピストンだった。
アベックス社のピストンだけでは飽き足らないので、何か違う味をもったピストンを入れてオリジナルダンパーを作れないかと模索していたときのモノ。


スタッフ3人ともフロント専用と考えてこのピストンのテストはした。
しかし

ランサー
「フロントが入りやすくなるのはありがたいが別に必要としない」
RX-7
「特性が違うようには感じるがフロントにレスポンスがあってもあまりタイムとは直結しないから使用するほどではない」
という結論で特に必要なしと外されてしまった。

この時期DC2用のダンパーも同時に模索していたため、先に1セット別なサポートドライバーに足のテストをしてもらっており、何度がディスカッションも終えてスタッフ3人には無い手ごたえがあるようだった。
駆動が違うとこういう動き方に好みがあるのか...と意外に思えたピストンである。


フロントにこのピストンを使ってみた。
その日のテストで二駆最速タイムを午前、午後ともにマークしたと連絡が入った。


この別設計ピストンは既存のアペックス製のピストンより低速でより多くの動きを出す設計。同じ減衰力でダンパーを作ってもドライバーは大きく動くように感じるので逆に減衰力を強く制作することが可能。
市販ではないが暫定でこのピストンをベースにサポートドライバーの仕様を煮詰めていく事にした。同時にこのピストンが無くても市販のアペックスの部品でこのピストンの乗り味を出せないかという試行錯誤も始まった。
2006年
後半
まだ曲がらない

順調にポイントリーダーとなって望んだ第3戦SUGOで予期しない動きが出た。
ここでサポートドライバーは一年ぶりに入賞を逃した。
公開練習ではトップタイムなのに、決勝は終始フロントアンダーで結果11位。

そして次の北海道ラウンドでもまたアンダーステアに悩まされることになる。

セッティングの前後バランスを崩さなければならない事に思い当たった。
ブリヂストンタイヤ55Sにどうやらマイナーチェンジが起こっているらしい。
食い方、曲り特性が変わってしまっていてせっかくノーズが入るようになった車をリアが押してしまう。
グリップのいい路面ではリアを楽にし、リアが先に動いてフロントを助ける動きにする必要性を感じられた。
しかしリアを柔らかくすると途端にドライバーからクレームが出た。
「限界を下げると得意な高速ブレーキングが詰められない。」と。

駆動しないリアのコーナー限界を下げたいのに高速ブレーキはそのまま生かしたい。
そんな無茶な希望なのか!?
駆動しないリアを知らない。
くそ。わからない....。
何もできないまま最終戦まで来てしまった。

全日本シリーズが終わり彼はシリーズチャンピオンとなった。

こんな状況でもドライバーの練習とその場その場のスプリングチョイスや減衰チョイスでなんとか足の動きを取り繕って動きとしては悪くない足回りを保ってきた。
しかし、低速域や砂の浮いた路面でリアの動き誘うのにもう今のままでは限界だと悟ったのだろう。

要望があった。
「もっとピッチングを出したい」
この場合のピッチングとは跳ねのことではなく車体の前後方向の動きを言っている。

パイロンコース向けの足の基本はブレーキ時にノーズをダウンさせリアのリフトを誘って曲げやすくする。向きは変えやすい。しかしカートコースでは限界が下がりふらつく原因にもなる。これまでこのサポートドライバーは極端にこの動きを嫌った。しかし「車をもっと動かしてくれ」と言ってきたのだ。



JAFカップの翌週、現在の仕様より更に10%縮みを弱くし、その分伸びに反動が来ないようにフロントを仕様変更。更にリアは大幅にフロントへの追従性だけを考え07SPECへの模索を開始した。
2007年 BSタイヤRE55SにWTSというコンパウンドがラインナップされた。
今までのWT2とは明らかにコンパウンドも違うが構造が違う。
ブレーキングでタイヤはつぶれながら曲がっていく特長がある。
このタイプのタイヤを使い切るには固めの足で押し付けて滑らせるより、柔らかめの足で構造のつぶれがゆっくり起きるようにしたい。

今までよりも柔らかい。でもトラクションには妥協はしない。
「車を動かす方向」でダンパーのセッティングをしてくれといわれた事で、ダンパーの作り方に方向性が広がった。しかもタイヤが変わった事でこの選択はまさにオンタイムであった。

 ver.1
タイヤに合わせた試作とテストを繰り返している最中での第1戦。名阪の天候は雪で足の動きは出なかったがタイヤがこんな気温でもつぶれて曲がっている事を見てすぐさま仕様変更を行う事とした。

ver.2
足を見たかったのだか第2戦浅間台では駆動系のマシントラブル。
次の幸田で優勝。
だがゴール前の八の字でリアの動きが悪く、タイヤのトラクションを目の当たりに感じた。柔らかさだけではこのタイヤのグリップはブレーキを使い切らせてしまう。
リアか...。

ver.3
まだリアのグリップがフロントに対して勝ってしまっている。
前後同サイズを履かなくていけないCR−X特有の難しさが出た。A車の頃には無かった動きだ。
リア限界そのものをもっと下げてしまい、バネの硬さだけに頼ればショートホイールベースとタイヤに依存して曲がりやすさは出るだろう。
だが、低いところで妥協するなら開発の必要はない。

それからはサポートドライバーに同じセッティングでは走らせなかった。
SUG0ラウンド後走行する機会ごとにテストを繰り返し、同じダンパーで2日走る事が無いくらいである。
IOX-AROSAラウンド一週間前、現地の練習会に行っているドライバーの感想を聞いてそれまでのデータからではなく考えを180°転換して初期減衰の立ち上がり方に特徴を作るアイデアが浮かんだ。その場で予備のダンパーを翌日着で送ってもらいその日のうちに仕様変更をして1日おいてまた練習に来ると言っていたIOX-AROSA会場に直接送りつけた。ドライバーの自宅に送る時間が無かったのだ(笑)中1日の荒業。

ver.3改
そのIOX-AROSAから昼過ぎにメールがきた。
『すげー踏める!立ち上がりでリアタイヤがついてくる、全く押されない!リア正履きでも二速からの旋回加速でのアクセル開度が違う!』


目処がたった。
面白いことにそれまで関東のFFドライバーがよくやる、リアの逆履きがパイロンコースでは走り易いという話がよく出ていたのに、リアタイヤの裏履きやローテーションを変えたりといった裏技よりもリアも正履きのほうがタイムが出るようになったらしい。
タイヤが本来あるべき姿でトラクションをかけて曲がれる。理想!



かくして、この一歩手前にできていた
゛ver.3゛「カートコース向け、単発ターン向け」
フロント伸び固め
リア縮みニュートラル


と、この日完成した
゛ver.4゛ 「パイロンジムカーナ、雨向け」
フロント縮み伸びとも両方わずかに柔らかめ
リア縮み柔らかめ


の2SETが暫定完成した。
コースレイアウトによってはパイロンコース用のダンパーでカートコース並みのコーナリングスピードを要求されることもあるため、パイロンジムカーナ用のリア足はピストンスピードで減衰の出方を変え、比較的コーナースピードの高いところではドライバーの好みの「高速ブレーキングに耐えうる」硬さを演出してみた。
これは気持ち冒険だったのだが(笑)、おかしな硬さになったりもせず 意図したところがうまく出て違和感の無い動きとなった。



また、それとは別に昨年から引き続き非売品のピストンを使用してもらってそちらのデータ
も溜まった。全てを踏まえて本人達の感想、ビデオで動きの違いを細かく検証。
このピストンを使用しなくてもアペックス社の部品だけで似た動きの出せる部品の組み合わせを見つけることができた。
ダンパーテスターでそれらの比較をきちんとデータ化できるのも嬉しい。
市販バージョンの完成である。
こうして旧車中の旧車、CR-Xの開発にとりあえずの決着がついた。


前後同じサイズのタイヤをはく為、ホイールベースが短いのにアンダーになり易いCR-Xの特性を最大限に生かす。

「全身で曲がる」
「接地の出ているリアでスピンしにくい」
「なのにサイドターン後のFF特有のリアが滑りすぎて立ち上がれない症状を極力軽減した」
扱い易いが限界も高いダンパー。



サポートドライバー
2007年度 永島裕士 2年連続SA1クラス全日本ジムカーナチャンピオン。
2008年 しかしまだ課題はある。
2SETもてない人のために両立できる減衰は無いか!?
TTは貧乏人の味方なのだ。

カートコース用とパイロンコース用のダンパーの特性を比較しているうちにリアダンパーの動きにまだ改善できるところがあることに気がついた。

CR-X。
まだまだ発展中である(笑)。